機械式駐車場の車止め移設は慎重な対応が必要
私の担当するマンションで、組合員より理事長に対して「車を買い直す。買いたい車は規定サイズ内だけど、車止めブロックを移動する必要がある。移設費用は自分で払うので点検業者に依頼させてもらいたい」という要請がありました。理事長は「サイズ内なんですよね。はい、ご自分で手配してください。私から管理会社に言っておきます」と応じてしまい、その後に私に連絡がありました。
この対応、普通に考えればなんにも問題ないようです。でも実は管理組合にとって大変大きな危険性があるのです。
これから益々増えるであろう機械式駐車場の車止めブロックの移動要請。管理組合として講ずべき工夫・方法についてまとめます。
機械式駐車場の車止め移設要請は増加中
まず、「規定サイズ内なのに、機械式駐車の車止め移設をしないといけない」とはどういうことでしょうか?
簡単にご説明します。
機械式駐車場における車止めの位置は、主に「パレット(車を載せる台)内への確実な収容」と「安全性の確保」という考え方に基づいて設定されています。具体的には、車止めブロックをパレットの後方に合わせて設置します。その際にギリギリではなく、車止めブロックと後ろの壁(またはパレットの端)との間には、安全な余裕(通常100〜120cm程度)を持つよう計算されています。
ただ、この計算は、「標準的な車」を前提として計算されています。ところが、最近は車種ごとにいろいろな工夫がされるようになり、「ホイールベース(前輪と後輪の距離)」と「リアオーバーハング(後輪から車体後端までの長さ)」のバランスが、駐車場の標準的な想定と異なる車が増えてきました。その結果、以下の現象が起きるようになりました。
「リアオーバーハング」が短すぎる場合
最近のSUVやミニバン、電気自動車(EV)に多いケース。
現象: 後輪が車止めに当たった時点で、車体後端と後ろの壁の間に無駄なスペースが余ってしまいます。
結果: その分、車体の前方がパレットからはみ出してしまい、前方のセンサーに反応したり、ゲートが閉まらなかったりします。
対策: 車止めをより後ろ(壁側)に移動させることで、車全体を深く収容する必要があります。
「リアオーバーハング」が長すぎる場合
大型のセダンや一部のワゴン車に見られるケース。
現象: 車体全体の長さ(全長)は規定内でも、後輪から後ろが長い。そのため、車止めに当たる前に車体後端が後ろの壁にぶつかりそうになります。
結果: 安全のために車止めを前(入り口側)に設置せざるを得ません。そうすると今度は前方が収まりきらなくなります。
機械式駐車場の車止め移設は簡単
古い機械式駐車場を除き、最近の多くの機械式駐車場ではこの車止めブロックを前後に移動できるようになっています。ですので、機械式駐車場の点検業者に依頼すれば、その調整をしてくれます。全長が駐車が定める規定サイズ内であれば、多くの車種でこの問題は解決可能なのです。
管理組合にとってのリスクは大
技術的には簡単で、費用も点検業者の担当者が一人来て30分の作業をするだけ。2万円~5万円程度の費用。申請者が「負担します」と言えば、簡単な問題のように見えます。ところが、これは管理組合にとっては非常に大きなリスクを抱え込むことになります。
どういうことかと言うと。
その申請者が解約する際に
①誰がその車止めブロックを元に戻すのか(原状回復)。
という問題。および
②忘れずにその原状回復をできるのか。
さらには
③車止めブロックを元に戻すことを失念してしまったことにより、次の契約者が車をぶつけてしまった場合に、誰の責任になるのか。
という面倒な問題です。
突き詰めれば、②の「忘れないで原状回復」することができるのか、という問題です。
絶対に忘れないで原状回復することは可能?
理事長や理事会メンバーは、ほとんどの組合が輪番制。1年や2年で交代します。だから「解約した際に戻す」ことに関して管理組合が責任を持つことは不可能です。
ならば、「管理会社に頼めばいい」。なぜいけないの? とお思いになると思いますが、管理会社は担当フロントはいつ交代するか分かりません。担当フロントに頼るのは危険過ぎます。当然、普通の管理会社は、マンション顧客の管理システムをしっかりと持っていて、駐車場の管理もしっかりとやってくれています。
ただ、それを担当しているのは、居住者の管理費等の管理の一環として担当している部署。駐車場の解約の申し出があった際に、その人の名前を消す手続きはしてくれます。でも、その区画の注意事項を必ず忘れずに担当フロントに教えてくれるのか、と言えばかなり不安が強く残ります。そのお客様の顔は当然知らない、そのマンションにも行ったことのない1000~2000のマンションを管理している会社の管理費等の管理を中心に仕事している女性社員がその区画の解約時の注意事項(99%の区画に特に注意事項はありません)を良く読んでくれることだけに頼ってしまうのは管理組合としてのリスクマネジメントは不十分と言わざるを得ません。
フロントしだいでバラバラ対応
ですので、管理会社によってこの要請への対応は違います。私が今務めている会社では、この問題に対する会社としての対応は決まっておりません。ですのですべてはフロントしだいとなってしまっています。
そして、注意深いフロントマン(仕事は真面目だが融通のきかないタイプ)は、この申請に対して「対応できません。購入予定の車を変えてください」と対応しています。一方で、何も考えないフロントマンは「はい、いいですよ。ご自分のご負担でお願いしますね」と簡単に許可しています。どちらがいいフロントマンなのか、難しい問題ですよね。
「特別敷金」で解決
事故防止=次の契約者とのトラブル回避、ばかりを優先して車止めブロックの移設を許可しない、というのもこの車種が多様化した時代の中でカーライフの楽しみを奪ってしまいます。 一方で、「大丈夫だよ」で容易に応じてしまうと将来に禍根を残すかもしれません。
私が駐車場を管理している部門と相談して選考した方法は、「特別敷金」を預かる、というアイディアでした。マンションの駐車場の場合、多くの管理組合では、区分所有者には敷金なし、賃借人等には敷金を預かって駐車場契約をしています。このルールの例外として、車止めブロックの移設をする場合は、10万円という高額な「特別敷金」を拠出願い、解約時に申請者からその返却の申し出することを忘れさせない、というシステムをつくりました。
解約するときにちゃんと忘れずにブロックを元に戻す。そうすればこの10万円は戻ってくる。ですので、これは「移設料」とかではなく、純粋に「忘れないでね料」です。
これで、まずは第一義的には申請者本人が忘れずに元に戻す、ということがまず確証できるシステムとしました。そして、10万円の敷金を預かっている、というのは駐車場管理担当部署としても、単に「ブロック元に戻す」という「ワケの分からない注意事項」とは次元が違ってきますので、仮に本人が申請するのを忘れても重大なアラームとして駐車場「登録管理担当者」も気づく可能性が高くなるわけです。
契約書に更なる工夫が可能
「特別敷金」をもらうのですから、契約書が必要となります。その契約書を交わすことで、以下のような更なる工夫も可能になりました。ちょっと申請者にはご負担かもしれません。でもそれで「忘れないこと」「忘れても事故防止」のためにさらに万全を期すことができます。
<更なる工夫①>
「原状回復」後に10万円を戻す「順序」の確認
解約手続きそのものを、原状回復の完了とセットにしてしまいます。
契約書の文章は以下です。
(解約の要件)
乙(申出者)による本駐車場の解約手続きは、原状回復工事の完了および甲(管理組合)による検収が完了したことをもって、受理されるものとする。原状回復がなされない限り、乙は解約後も駐車場使用料相当額を損害金として支払い続けなければならない。
<更なる工夫②>
「勝手に次の人が使えない」ことの明示(実効性の確保)
現場に「この区画は特殊仕様である」ことを明示させ、物理的に気づく状態を作ります。
契約書の文章は以下です。
(明示義務)
乙(申出者)は、本設備の移動期間中、当該区画の目立つ場所に「解約時原状回復要」等の管理組合が指定する標識(ステッカー等)を、乙の負担で掲示し維持しなければならない。
具体的には、テプラや小さなプレートで「本区画:車止め移動許可済。解約時、覚書に基づき復元のこと」と区画内に表示させるということです。つまり車止めを移動した場所や、本来あるべき場所に、管理組合名で「許可を得て移動中。解約時要復元」というプレートを(邪魔にならない程度に)貼っておく、ということです。これが、後任の理事や管理会社担当者への「動かぬ証拠」となります。
機械式駐車場の車止め移設のまとめ
機械式駐車場の車止め移設は、一見小さな変更に思えます。でも、管理組合にとっては「次の契約者が知らずに駐車して壁に車をぶつけてしまう」という重大なリスクをはらんでいます。
このリスクを未然に防止し、組合員の皆さんのニーズを満たすうえでこの「特別敷金」というシステムは非常に有効です。それは、金銭的な担保というよりも「解約時に必ず元に戻さなければならない」という心理的な抑止力として意味あるものです。
管理会社の担当者が代わっても、「契約者本人の責任で、必ず、自ら」原状回復を行わざるを得ない仕組みなのです。
そして、その実行にあたっては、その意味をしっかりと申出者にも共有していただくこと。つまり「10万円は費用ではありません。預けておいて最後に戻ってくるお金です」ということをご理解いただく。「金銭が欲しいのではありません。元に戻してほしいだけです」という組合のスタンスを、改めて共有し、「10万円は、もし原状回復を忘れたら没収されてしまう罰金の(前払い)ようなもの」という認識を持ってもらうのが一番の抑止力になるということです。
また、これを実行する際には、他の管理組合員も「あれ、なんか普通と違うよね」とか気づくと思います。せっかくいいことをしているのです。当「特例措置」は、広く全組合員に説明しておくことも大切です。
申出者(一組合員)と管理組合(組合員全員)とがお互いに納得して、円満に、そしてリスクを回避できるシステム。工夫しだいで実現できますよね。
